三、布教・教化資料
　
(1)「解」を伝える　〜二祖三代の伝統〜

　
　一、はじめに
　明徳四（一三九三）年、浄土宗中興の祖である七祖聖冏(しょうげい)上人は、後に大本山増上寺開山となる八祖聖聰(しょうそう)上人に対して五重相伝を授けられた。これが五重相伝の始めである。聖冏上人は、善導大師・法然上人・聖光上人・良忠上人という二祖三代以来、嫡々と相承されてきた浄土宗義の核心を、正確にしかも遺漏なく伝授する方策として、機・法（行）・解・証・信の大綱に沿って、三代の著作を中心に五重の相伝書を選定、自らも四種の注釈書を撰述して鎮西白旗派の正統を伝授する法を確定された。上人の多彩な業績の中でも、この五重相伝の制定は、信仰教団としての浄土宗にもっとも多大な影響を与え続けていると言っても過言ではない。（1）
　本稿は、一昨年及び昨年述べた初重・二重についての拙論を受け、五重相伝の三重に据えられた「解」の勧誡において留意すべき点について言及するものである。その進め方としては、三重伝書『領解(りょうげ)末代念仏授手印抄』（以下『領解抄』と記す）本文の構成について述べ、次に、特に三心の四句分別の内容とその撰述意図、加えて、法然上人から聖光上人を経て良忠上人へと継承された三心理解の基本について考察を施すものである。
　なお本稿は、どこまでも読者諸大徳が五重の理解や勧誡をされるにあたってのたたき台程度のものであることをあらかじめお断りさせていただきたい。また、紙面の都合上、『領解抄』本文について詳説することは許されないので、その肝要を一言するに留めた。その詳細は、先学による緻密な解題や布教師大家によって刊行されている滋味溢れた多くの五重相伝勧誡書等をご覧いただければ幸いである。