人間はだれでも年老いていくものである。老後の人生の在り方について、念仏信仰による生き甲斐のある生活を見いだすように説くべきである。それは奉仕と感謝の生活と思われる。永き人生を送るにあたり、親子、夫婦、兄弟はいうに及ばず、隣人、社会人、さらに天地万物一切のもののお蔭で生命を永らえさしていただいたものである。これを仏教では「縁起」という。人間をも含めて天地万物一切のものは互いに相依相関の関係によってのみ生存が可能であって、自己一人のみでは絶対に生存していくことの出来ぬものである。この相依相関の関係にあるということは、別言すれば他力によって在るということである。この相依相関という縁起の道理を神格化して仏という。いわゆる法身の仏である。これを凡夫にわかり易く、象的に説きあかされたものが、西方浄土の阿弥陀仏(三身即一)である。
それで、仏さまのお蔭で「いのち」を永らえさしていただいたことに感謝し、報恩の奉仕行を勤めようと考えるところに、老人の現実における生き方があるのでなかろうか。
さらに、仏は念仏するものに加護を与えたまうことを信じ、第二の人生(浄土)の在ることを確信して、仏とともに強く生き抜く奉仕と感謝の生活に、老後の生き甲斐を見いだすべく説きあかすべきであろう。
(昭和61年度 浄土宗布教必携より)