第三篇 伝道作法

『浄土宗法要集』および『新訂・浄土宗法要集−威儀・■(かん)稚』による伝道作法の次第に則り、各項目について布教上の法式を詳述する。

一、説教

控室(準備)

 布教師の控室には、仏壇または床の間に本尊、お名号の掛軸を安置し、香華、灯燭、供物等の荘厳を行う。

 白衣を着るときは、まず初めに足袋を履く。新しい足袋は、水につけて糊気を取っておくとよい。糊がついていると、入堂するとき内陣の床板で滑ることがある。

 袈裟と法衣は、通常壊色を用いる。袈裟は、七条以上の如法衣で、天竺衣、南山衣のどちらでもよい。法衣は、黒衣、茶衣の袱紗衣、または直綴を被着する。特別法衣または地方の慣例によって顕色を用いることがある。壊色の法衣には、袴をつけないものとする。五重相伝会の場合、普通紫衣が用いられるが、古代紫がふさわしい。授戒会の時は壊色が用いられることもある。

 十月一日より翌年五月三十一日までの冬衣の期間は、白無地羽二重製の領帽を被着する。ただし、五月、十月は着用しない地方がある。夏の法衣は、六月一日より九月三十日まで被着する。

 身支度が整ったならば、本尊前に香を焚き、三礼の後、坐して暫時、称名念仏する。その後、説相袱紗を開いて、稿本を中央縦に置く。袱紗の先端部分に紋がついているときは、紋が上端になるように開く。つぎに、手前、左右、前方をたたんで包み納める。他に、手前、左、右の順にたたむ方法もある。

喚鐘

 布教師の出座準備が整ったところで、役僧は鐘所に行き、三宝を念じて撞木を執り、虚階一下して、「願諸賢聖 同入道場 願諸悪趣 倶時離苦」の文を唱え、三通三下する。一通は、大から小に約四十下するもので、漸次速く打ち、終りに三下する。

入堂

 引僧は、柄香炉に香を焚き、柄の下部彎曲部を右手で握り、左手で柄の中央部を、掌を仰向くように軽く持ち、香炉を前方にして、布教師の前に立って進む。役僧は、袱紗を説相箱に納め、肩の高さに持って布教師の後に従う。地方によっては、引■(金)が先進する場合もある。

 布教師は、法服の威儀を正し、左手に日課数珠、または百八念珠を掛け、如意を、右手を下に左手を上にして、胸前に斜めに執持する。説相袱紗を自分で持つときは、両手で胸前に持つか、如意とともに持つときは、如意の上に執持する。

 歩行は、左足から踏み出し、一・八メートルを六単歩で歩く。右折しようとするときは、左足の内側を右足先に、ほぼイ形になるようにしてから、右足を右方向に踏み出す。左折の場合は、右折に準じて反対に行う。

 講場内では、木魚念仏を唱え、布教師を迎え待つ。この間に、内陣の左方(向って右方)より入堂し、本尊前焼香机前に至る。

仏前焼香

 焼香するときは、自分の香盒を用いるのを本儀とする。左袂から取り出し、右手の親指、人差指で香木をつまみ、左掌を仰向けて右手を受け、額より上に至るように頂戴し、焚焼する。一回、二回または、三回する。

無言三拝

 合掌して両足の指を爪立て、つぎに、左膝を立てて起立し、左足を引いて右足に揃える。左右の踵を少しはなして直立し、目は聖容を仰ぎ見る。つぎに両膝をゆっくり屈して、右、左の順に膝をつける。このとき必要に応じて袈裟の下部を右手で持ってもよい。袈裟を膝下に敷き込まないためである。つぎに、両臂、額の順に床(畳)につけ、両掌を仰向けて耳朶のあたりまで上げ、やや、しばらく形を保ち、その後、合掌し体を起す。この礼を上品礼といい、三回行う。

登高座

 仏前三拝の後、ゆっくり高座前に至り、如意を横様に両掌にはさみ、一回低頭し、礼盤上に着座、蹲居の形から、如意を高座上に置き、前方に押し進め、袈裟、法衣を捌き、まず左膝を立てて、高座の縁にかけ、つぎに右膝を高座上に上げ、左右膝を前進させ、最後に左膝を少し進めて正座し、袈裟、法衣の威儀を整え、如意を前卓右側に縦に置く。

 役僧は、この間に説相箱を前卓に置く。役僧がない場合は、登高座の後、袱紗を高座前卓の説相箱に納める。

焼香

 前記の仏前焼香の作法と同様。

開説相

 説相箱に納められた袱紗の上端三角部分を前方に開き、右、左、手前の順に開く。または、右、左、前方の順に開く方法もある。つぎに合掌の後、割笏一下し、この合図により木魚念仏を停止する。

授与十念

「如来大慈悲哀愍護念」または、「令声不絶具足十念称」の文を唱え、「同唱十念」と発声してから、割笏一下し、十念を授ける。

開経偈

「無上甚深微妙法 百千万劫難遭遇 我今見聞得受持 願解如来真実義」の文を唱え終って割笏一下する。この偈の二句目から讃題を捧持し、香に薫じ、四句目の終りに頂戴する。

讃題

 讃題を捧持して、「謹んで拝読す」または「敬って拝誦し奉る」あるいは「謹み敬って拝読し奉る」と前文を唱え、その後、本文を拝読する。会場の広狭に応じて声の大小・高低・緩急に工夫がいる。

説教

 本説に入り、作法に特別なことはないが、身振り、手振りが品位を保つよう注意する。

十念

「同唱十念」と発声し、割笏一下する。

閉説相

 開説相と逆に、手前、左、右、前方上端をたたみ、包み納める。また、袱紗を手前、左、右の順にたたむ方法もある。

念仏一会

「光明遍照 十方世界 念仏衆生 摂取不捨」と発声し、若干遍念仏を修し、この間に下高座する。あるいは同唱十念に終り、念仏一会、その間に閉説相、下高座する。

下高座

 正座から、右膝、左膝を下げ、右足を礼盤上に着け、つづいて左足を下して蹲居し、如意を手前に引きよせ、礼盤上に着座する。つぎに役僧は、柄香炉を持って引僧し、本尊前に至る。説相箱を持つ役僧は後に従う。

無言一拝

 仏前焼香の後、上品礼の威儀により一拝する。

退堂

 柄香炉、布教師、説相箱の順序に、本堂内陣に向って左側より裏堂に入り、控室に退る。控室では本尊前に礼拝の後、袈裟、法衣を脱し終る。

(昭和59年度 浄土宗布教必携より)