1、現代社会への警鐘
戦後三十余年にわたる先覚者の努力によって、日本は世界における有数の経済大国となり、物質文化は最高とまで思われるところに達したが、反面、金銭万能主義、我欲満足主義の社会となり、精神面は遺憾ながら荒凉たる砂漠のごとき様相を呈している。仏、神の存在を忘れ、無常の人生であるにかかわらず、これには耳を塞ぎ、自己自身に対する反省の念はきわめて乏しい。いかに巨万の財産を蓄え、立派な地位や名誉を得ても、一たび無常の風にあえば、得たものはすべて残して、ただ一人あの世に旅立ねばならない。
この有限にして空しい無常の人生をいかに意義ある人生にするか、ここに宗教があり、法然上人の教えがある。法然上人は仏の本願を信じ、仏の光明をあがめて念仏するところに、いかなる職業に従事していても、人間として真実の生き方があると説かれている。
仏は大慈悲をもって念仏するものを護念したまい、四苦八苦の人生に在りながら、四苦八苦ともに「煩いなき」安らぎの生涯を全うするために念仏の教えを説かれるのである。
(昭和59年度 浄土宗布教必携より)