【細説】

1、授戒

 私たちは社会人であるとともに仏教徒であり、かつ浄土宗の念仏教徒である。社会人であるかぎり、社会道徳、社会慣習、法律は守らなければならない。それと同様に、仏教徒として、「仏教徒らしき生活規範」「考え方」があるべきである。これが授戒である。授戒は大乗戒の精神を伝えることであって、摂津儀戒・摂善法戒・摂衆生戒に分かれているが、要するところは自己自身を自律して止悪修善につとめる心構えである。この三聚浄戒の精神を体して生活するところに仏教徒としての生き方がある。

 現今、社会の生活規範が乱れて、我欲我執の生活に追われ、個人主義が利己主義と解され、我欲の充足が権利のごとく考えられている。さらに自由主義が放任主義とされ、金銭の奴隷となって、本来、個人が義務と責任を負って自律自制すべき民主主義の精神が失われんとしている。かかる時にこそ、大乗戒の精神を説く授戒を盛んにして、仏教徒として在るべき生活規範を説くべきである。

 日本仏教は祖師仏教、宗派仏教といわれるごとく、各宗ともに開祖の精神を説くに熱心であるが、仏教徒として釈尊の精神を説く点において弱い面があるのでなかろうか。

(昭和58年度 浄土宗布教必携より)