付録章◎ 帰敬式
帰敬式
(ⅰ)十重禁戒
円頓戒に説く「持戒の相」である。『梵網経』六十一品百二十余巻の中、第十地菩心地品二巻(鳩摩羅什三蔵訳)の上巻は菩の位を説き、下巻では菩の守るべき十重四十八軽戒が説かれている。
円頓戒(円戒・円頓菩戒・大乗戒・大戒・性徳戒・常住仏性戒・妙戒・金剛宝戒とも言う)は伝教大師最澄によって日本に伝えられたが、それは『法華経』の精神を、『梵網経』の儀規によって伝えようとするものである。
伝教大師は菩の養成を目指されたのであり、ここに円頓戒の戒法が日本の道徳として確立されたのである。
●小乗戒は、比丘二百五十戒・比丘尼三百四十八戒などと厳格である。
説相
(1)不殺生戒(2)不偸盗戒(3)不邪淫戒(4)不妄語戒(5)不酤酒戒(6)不説四衆過戒(7)不自讃毀他戒(8)不慳惜加毀戒(9)不瞋心不受悔戒(10)不謗三宝戒、を十重禁戒とするが、その詳細は、七〇頁以下を参照されたい。
(ⅱ)お剃度
剃 =
度 = 渡と同意。梵語のパーラミタ(波羅蜜多)=到彼岸のこと
●鬚髪を剃除するは驕慢の心を捨てんがため
●壊色の衣を著するは貧愛心を除かんがため
説偈(報恩偈) = 流転三界中 恩愛不能断 棄恩入無為 真実報恩謝
穢土(娑婆)において六道流転する身は、種々の恩愛のしがらみを断ち切り難いものであるが、このたびは俗の道を離れて出家することになりました。しかしこれがまことの報恩行でございます。
灌 頂 = 弥陀心水沐身頂(仏前に供してあった聖水を頭頂に灌ぐ)
剃度作法 = 鬚髪剃除 当願衆生 永離(断除)煩悩 究寛寂滅
授与袈裟 = 大哉解脱服 無相福田衣 被奉如戒行 広度諸衆生
●袈 裟 = 梵語のカーサー。福田衣とも糞掃衣とも言う
●三衣一鉢 = 五条・七条・九条の三衣と、四条仕立ての坐具。合計二十五条
鉢= 鉄鉢一椀
授与聖典・念珠
●聖典 = 浄土宗日常勤行式(仏身観文・阿弥陀経記載の聖典が望ましい)
●念珠 = 二連念珠(阿波介の因縁)
●授与度牒(生前戒名)
この場合、本山の度牒では不似合いではないか?=別に作成する?正式の五重道場ではないから、誉号は授与できない。
「信士・信女の」二文字を省いた「四字」の戒名授与が望ましいと思われる。
(ⅲ)日課授与
日課の本来の意味は、その日その日に済まさねばならない仕事の意
今回の場合は、お念仏を相続して一生涯、毎日○○遍以上の称名をみ仏に誓うこと。
●聖光上人の『念仏名義集』に「数遍を定めぬと懈怠の因縁となる」と。
●良い癖をつける=習慣は第二の天性と言われる。お念仏が自然と我がものとなるように。
●法然上人 = 五万、六万の日課日課○○遍以上=ただし数で助かるのではない。
和上口弁
「汝等(なんだち)諦かに聴け、心存助給口称南無阿弥陀仏の一法は、弥陀の本願、釈尊の付属、諸仏証誠したまうところにして、往生浄土の正定の業因なり。汝等今日よりはじめて最後臨終の夕べに至るまで、日課称名○○遍以上、その中間において誓って中止せず、よく持(たも)つや否や」
受者一同
「よく持つ」
●三遍くり返す。二遍目からは、
「汝等今日よりはじめて最後臨終の……」と後半だけでも良い。
◆帰敬式の差定について 【試案】
(1)前行(説諭三席と仮定して)
洪鐘 版木 喚鐘 など適宜
受者入堂
喚 鐘
和上入堂
香 偈
三宝礼
四奉請
懺悔偈 十念
開経偈
誦 経
本誓偈
礼懺儀
恭敬礼拝
勧 誡 (1)
小 憩
別時念仏
勧 誡 (2)
日中半斎
昼 食
恭敬礼拝
勧 誡 (3)
小 憩
帰敬式 正作法
日没回向
(2)正 作 法
喚鐘(一通三下)
受者入堂
喚 鐘(三通三下)
和上入堂
四奉請(散華)
歎仏偈
帰敬式表白
和上登高座
壇上洒水
受者焼香
一同坐三唱三礼
授与 十念
同坐三唱一礼
請 師(代表和文で唱える)
開 導
入信者懺悔(教授師教えて唱えしむ)
報恩偈(流転三界中・・・)
灌 頂(弥陀心水沐身頂)
剃度作法
授与 袈裟(聖典・念珠も)
授与 三帰三寛
説示 五戒 又は十重禁
授与 度牒(生前戒名)
授与 日課
授与 十念(終わって摂益文発音)
和上復座(念仏一会中)
帰敬日課誓約
総回向偈 十念
総願偈
送仏偈 十念
和上退堂
受者退堂 以上
◆帰敬式後の教化について
帰敬式によって菩提寺と古い檀家とのご縁が復活して強固なものとなり、寺檀関係が甦ればまことに有り難いことである。地元に暮らす人々も、故郷を離れて遠隔の地で暮らす方々も、大きな心のよりどころを得て嬉しく思われるに違いない。
帰敬式を厳修して、それで終わるのではなく、そこを出発点とせねばならない。せっかく結んだご縁を大切にして教化の実を挙げてゆくことを図るべきである。近隣の檀信徒とは何かと接触もあるが、故郷を遠く離れた檀家とはそのまま疎遠になってしまうかも知れない。もし「寺報」を出していたらそれを送り続けることも良い。「浄土宗新聞」なども委託送付してくださるからそれを利用するのも良い。
また、お盆や年の暮れに帰省して、お墓まいりに来られたら、温かく迎えて差し上げて、土地の古い歴史や、そのお方のご先祖のお寺に尽くされたご功績などを語り伝えるのも大事なことである。
こうしたことは、ここでことあたらしく触れなくても、すでに多くの寺院によって実施されているところであろう。そうした寺院に対しては深甚の敬意を払うとともに、結縁五重相伝や結縁授戒が全国津々浦々の浄土宗寺院で開筵される機縁が生まれるような帰敬式の普及が望まれるところである。