付録章◎ 帰敬式
  帰敬式について

 
 
浄土宗布教委員会委員長 上田 見宥

 

1.今、なぜ帰敬式なのか

 ご承知のとおり近年わが宗では、結縁五重相伝の開筵を勧奨し、その準備段階からの指導や、勧誡師・教授師・回向師の派遣、諸道具の貸し出しまで、いろいろな助成が受けられることはまことに有り難く、喜ばしいことである。

 その理由はまず、授戒会と並んで五重相伝が、車の両輪の如くあ教化の重要な二本柱のうちの一本であり、信者育成の方策として他宗も羨む成果を挙げているからである。実際のところ、五日乃至一週間の別行は、日常の生活では味わうことのできない宗教的体験の世界であり、念仏者の信根培養にとって、これ以上のものは考えられないところである。

 もう一つの理由は、五重相伝の開筵が盛んになされる地域と、非常に少ない地域という、極端に二分化されているような現実を是正して、各教区でまんべんなく開筵してほしいという願望からの発想であろう。

 盛んに開筵される地域では、五重相伝が定着しているから、檀信徒の方も受けるのが当然という意識があり、一度ならず二度、三度と受ける信者がおられるほどであり、寺院側もノウハウが分かっているから暗中模索せずに開筵できるのである。これに対してあまり普及していない地域では、開筵の寺院も、お取り持ちの宗侶も共に不慣れであるから、準備の手順や入行してからの進行、法式の全てに自信がなく、受者となる檀信徒も五重に馴染んでいないから申し込みに躊躇するという悪循環に陥るのである。加えてかなりの金額の予算を組むとなると住職も二の足を踏むことになりかねない。殊に檀信徒数の少ない寺院では、五重開筵の機運がなかなか熟さないのも無理からぬことと考えられるのである。

 そこで是非とも取り上げていただきたいのが「帰敬式」の実施である。もちろん、五重の開筵が理想ではあるが、次善の策として帰敬式をお勧めしたい。この帰敬式を通じて浄土宗の檀信徒としての自分を最確認してもらう手だてとしたいのである。

 私の知るある地方の住職が、都会に出た檀家に対して生前戒名を授けている例がある。
その理由としては、

①好意的に授けた
②菩提寺と縁結びのため
③経済的な問題からか

といろいろ考えられる。それは別に非難されることではなく、むしろ好ましいことであるが、そこでは必ず帰敬式を行った上で授与するのでなければならない。

 ところで以前、新聞紙上に「生前戒名普及会」の広告が掲載されたことがあった。その要旨は「後に残された家族に負担をかけないためにも、いまや生前戒名時代」として「普及会費四万円で授与」とあった。四万円を出せば戒名を授与するというのである。この普及会がどんな会なのか、単なる営利目的の会なのか、また如何なる儀式をもって授与するのか、そのあたりは一切不明であるが、この広告を見て申し込み、生前戒名を授与されたとしても、その人の葬儀に際して寺院と遺族の間でトラブルの原因になる可能性があると思われる。

 もし地方から大都会に出て就職したお方がその地に定着し、ご自分の故郷と疎遠になっていたとしても、時々は故郷にお帰りになるだろうし、そこには先祖代々の菩提寺があるはずである。私の家は浄土宗と深いご縁があると自覚してくだされば、戒名は、縁のない「生前戒名普及会」からではなく、ご縁の深い菩提寺から授与されることが望ましいのである。

 今いう「普及会」などは、明らかにお寺とご縁の結ばれてない人々を対象にしている。とすれば、わが寺の檀信徒の出身と分かっているお方をみすみす放っておくのは残念であり、法然上人に対しても申し訳ないことである。いろいろの理由で五重相伝を開筵することができなくても、せめて帰敬式で檀信徒のご縁を保つ努力をするのは我々の責務であろう。

 その帰敬式の儀式次第については、理想的には宗定の帰敬式・剃度式・授戒会などの一体となったものが望ましいと考えられる。つまりそれぞれの要点を取り入れ、最後はお念仏の一行に結帰する。
所要の時間については、

1、一時間半~
2、半日
3、午前・午後にわたる丸一日

と種々の方法が考えられる。三、の場合は五重作礼に準じて二、三席程度の勧誡(説諭)に続いての正作法が可能である。この場合の勧誡も布教師を招聘しなくても良いように、その要点を示すので参考にしていただきたい。

 また対象となる人数も、一、二名の少人数から十~二十名程度まで可能である。お正月やお盆、あるいは親戚のご法事などで帰郷された機会を捉えて簡単に行っても良い(行わないよりは格段に良いはずである)。

 その時、必ず取り入れて欲しい項目は、

・説諭
・洒水潅頂
・懺悔
・授与三帰三竟
・剃度作法
・授与袈裟
・説示五戒(又は十重禁戒)
・授与日課
・授与度牒(生前戒名)

である。

 なお、生前戒名について、これは五重相伝ではないので、誉号を授与するのは遠慮せねばなるまい。一応○○○○の四字を授与し、後ほど信士・信女を付ければ良いし、また五重相伝に結縁されたり、贈五重に付かれた場合は、二字目を誉号に替え、禅定門・禅定尼を追贈すれば良いのである。