「共生」の一般的理解

 「共生(きょうせい)」という概念は、一般に生物学的概念に基づいて理解されていると言える。ちなみに手元にあった事典を引いてみると、「きようせい 共生 Symbiosis とは、同一地域に共存する多数の生物種の間には非常にさまざまな相互関係があるが、その中の一つ。ふつうは、二種間で両方または一方が利益を受けて、どちらも害を受けないような関係と定義されている。そして、両方がともに利益を受けるような関係を相利共生 (mutualism)、一方のみが利益を受けるような関係を片(偏)利共生 (commensalism)と呼ぶ。ただし、前者のみに対して共生という言葉を用いることもある。しかし、これは概念上または整理上のことで、具体的にはこのようにきれいに割り切れるものではない─」 と述べている(『平凡社大百科事典』平凡社、一九八四年)。

 また、ほかの辞典では、ほぼ同じ記述で、生物学による概念と見て間違いはない(『岩波生物学辞典』第三版、岩波書店。一九六〇年)。この原語となっている「symbiosis」を英語辞典でさらに見てみると、次の四種に分けて説明している。

 

【1】(生物)共生。 (1) 二種の異なる生物が一緒に生活すること。共利共生(mutualism)、片利共生(commensalism)、片害作用(amensalism)、寄生(parasitism)がある。(2)〈もと=mutualism 1 。

【2】(精神医学)共生関係。二人の人間が互いに頼り、励まし合う関係。有益な場合も有害な場合もある。

【3】(精神分析)共生関係。幼児が身体的にも情緒的にも母親に依存しているような母子の関係。

【4】(一般に)(人間・集団相互の)共益[協力]、関係。

  (『小学館ランダムハウス英語辞典』小学館、一九九八年)

 このように辞(事)典を引いてもわかるように、もともとは生物学の概念であった「共生」の概念を応用して政治、経済、社会、文化の諸現象を論じようとしている状況にある。 最近の新聞紙上を賑わせているのは、フロンガスがもたらすオゾン層の破壊、それに基づく我々の住む地球自体の気候温暖化、酸性雨、原爆・水爆実験による黒い雨、文明諸国への材木の輸出による熱帯雨林の伐採と消失、砂漠化、開発途上国の公害問題、野生生物種の減少・絶滅、海洋汚染、ダイオキシンの発生、有害廃棄物の処理問題などの地球上の環境問題が指摘されている。

 こうした環境問題に対して人間生活のあり方を問う形で共生が提唱され、あらゆる分野に及んでいる。身体と精神、理性と情念、「生と死」といった人間それ自体の葛藤の諸問題、そういった人間とかかわりあう自然、創造と破壊、開発と保存維持、都市と農村、地域性とグローバル化、伝統と先端、観念と現実、世代間の共生などである。これらの共生概念は「○と○との」共生として考察対象をアプローチしていると言っていいであろう。しかも、類似語として調和・共存・共栄・妥協などの語があるが、共生は相互に矛盾をかかえて対立する中で相互を必要とし、理解しようとする新たな関係を取り結ぶ意味に取ってアプローチしていると言っていいであろう。

 これらの諸問題を科学的に論じようとする新学部・学科も誕生している。さらに講座名に「共生」を冠するもの、施設名に「共生」を冠するもの、講座名に「共生」の名を冠しないが、カリキュラムにおいて内容的に共生を論じているものなどは枚挙に暇ないほどである。このほか、地球環境をも視野に入れた人間居住研究の情報交換の場として、日本環境共生学会の設立を見せている。共生の名を冠した書籍の出版は百冊を優に超している状況にあるのである。