第1章◎ 教学とのかかわり
『勅修御伝』見聞─ただひとつの道


布教委員会副委員長 柴田 哲彦


はじめに
『勅修御伝』(『法然上人行状絵図』)は『四十八巻伝』と通称されるごとく、全四十八巻から成り、あまた存在する僧伝中で異例なほどの大部。そして多数ある法然上人伝記の中でも、きわめて こうかんことば伝である。宗祖法然上人のご生涯はもちろん、ご法語、教説、門下、道俗帰依者、宗祖所縁の人物等に記述は及び、『勅修御伝』成立以前の諸伝記を渉(しょう)猟(りょう)し考証するなど、その跡が認められ、宗祖法然上人のすべてを知るためには完成度の高い貴重な伝であるといえよう。(伊藤唯眞師稿『布教羅針盤』平成十八、十九年度所収「教学とのかかわり」、同師稿『浄土宗聖典』六巻「解題」参照)
 第一巻の冒頭に、


上人遷化の後(中略)見む者の信を勧めむがために、 じくに著わして、 ばんだいの明鑑に備う。
(聖典六・五頁)
と記するを承けた記述と考えられるが、忍澂は『御伝縁起』において、

法然上人行状画図一部四十八巻は。九十二代後伏見上皇(中略)万代の亀鑑にそなへまうすべき旨。舜昌法印に仰下さる。
(浄全一六・九八三頁)
と記し、宗祖法然上人開立の本願称名念仏義が、時代の変遷と共に恣(ほしいまま)に解されたりして、正しくその義が伝わらなくなってしまう恐れが生ずる。そこで、この『勅修御伝』こそ「万代の明鑑」「万代の亀鑑」としての役割を担って作成されたと解している。  今年度のテーマは「ただひとつの道」である。修学求道の段階では聖道諸宗の学匠を訪れ、 そのうんのうをきわめた法然上人が「ただひとつの道」本願称名念仏義に到達し、浄土一宗を開宗され、普遍的に時代を超え、現代に至るまで各時代の心のよりどころとなった教え、その教えの開立を『勅修御伝』の説示を中心として、改めてその意義を考察してみたい。