8 小結
「敵を怨むな。敵を討つな。出家してこの苦しみがない世界を求めよ」という父・時国の遺言は、法然上人の耳底にいつまでも響いていたのかもしれません。そして上人が探し求めた「すべての人々が人生の悲哀と苦悩から離れ得る唯一のお釈迦さまの教え」こそ、善導大師が示したお念仏と阿弥陀さまのお救いでした。法然上人の前半生はまさしく阿弥陀さまのお救いの探求であり、そして後半生はお念仏の中での人生でした。
一日に七万回ものお念仏は、その一声一声に阿弥陀さまのお救いを実感し、阿弥陀さまの光明に照らされ続けた上人の人生そのものと言っても決して過言ではないと思います。
法然上人のみ教えをいただく私たちも、法然上人のお言葉のままに、そして上人の日々の生活のままに、お念仏の中で生活をしていかねばなりません。また、このような念仏生活こそが「ただ一向に念仏すべし」という法然上人のお言葉の通りに私たちが日々を送ることでもあります。一瞬一瞬に過ぎ去っていく人生という時間を、一声一声のお念仏の中で過ごすことこそ、法然上人のお念仏のみ教えです。
法然上人の伝記は、私たちに偉大な宗祖の生涯とともに、このような念仏生活のありかたをも今に伝えています。