各種法然上人伝記一覧
法然上人の伝記は、滅後の簡単な記述のものから徐々に増幅されて長大なものになっている。それらは、室町時代以前に成立したとみられるもので十数種挙げられる。ここではそのうち代表的な伝記と、それらを拝読するに便利な刊行物を紹介する。
一、『法然上人行状絵図』四十八巻 (「四十八巻伝」「勅伝」)
国宝に指定されている。全長五四八mの長大な法然上人の代表的な絵伝(絵と詞書を有する)。後伏見上皇の勅命を受けた舜昌の作といわれるが、成立については疑義が多い。知恩院所蔵
(刊本)
−絵と詞書のあるもの−
(1)『法然上人絵伝』上・中・下(『続日本絵巻大成』1・2・3)小松茂美編集・中央公論社刊、昭和56年、各巻二万五千円
これには縮小とは言え全篇の画面と文字が全てカラー印刷で掲載されていて、いながらにして全長五四八㍍の絵巻の始終を鑑賞できる画期的なものである。これに詞書の釈文と、末尾に詳細な解説がある。なお、平成二年にこの普及版『続日本の絵巻』1・2・3(各巻五千円)が出版された。解説など一部省略されている部分があるが、全篇のカラー印刷は変わらず、手軽に披覧することができる。
(2)『法然上人絵伝』(『新修 日本絵巻物全集』14)編集担当塚本善隆・角川書店刊、昭和36年
全篇の絵の白黒写真(一部カラー)がある。詞書部分の写真はなく、釈文が付いていて、全体、筆者、建築、世相などについて、七篇の論文が参考に付されている。
−詞書のみ−
(1)『法然上人伝全集』井川定慶集 昭和二十七年刊
これにはこの『法然上人行状絵図』の詞書が所載されているが、他に『法然上人伝記』(「九巻伝」)、『本朝祖師伝記絵詞』(「四巻伝」、「伝法絵」)、『法然上人伝法絵流通』(「国華本」)、『法然上人伝法絵』(「高田専修寺本」)、『法然聖人絵』(「弘願本」)、『法然上人伝絵詞』(「琳阿本」)、『法然上人伝』(「増上寺本」)、『拾遺古徳伝』、『法然上人伝』(「十巻伝」)、『知恩伝』、『源空聖人私日記』、『法然上人伝記』(「醍醐本」)、『黒谷源空上人伝』(「十六門記」)などが所収され、さらに、法然上人の関連史料も収められている。
(2)『勅修御伝 法然上一手行状絵図』編輯井川定慶、浄土宗宗務庁刊昭和45年初版、千二百三十六円
詞書のみを釈文としてまとめたもの。井川博士の跋によれば、原本そのままの詞書ながら、この絵伝の副本である当麻本、江戸時代の義山本を対校した『大正新校本』に拠っている。つまり、井川博士が昭和27年に他の法然伝を合わせ上梓した『法然上人伝全集』の抜刷りである。
また、この著を基本に浄土宗出版室が『法然上人行状絵図索引』(平成2年、四百円)の小冊子を制作している。
(3)『法然上人伝の成立史的研究』第一〜三巻、法然上人伝研究会編、臨川書店刊、平成3年、五万六千六百五十円
昭和36年に刊行された四巻本の復刻版である。第一巻影印篇は、詞書全文の白黒写真版を掲載している。第二巻対照篇は詞書の釈文に『源空聖人私日記』、『九巻伝』などの八つの伝記を対照させていて、他の法然伝との比較に至便である。第三巻研究篇には、成立、和歌、序文などについて九篇の論文を収めている。
(4)『全訳法然上人勅修御伝』村瀬秀雄訳 常念寺刊 昭和57年 六千八百円
これは絵伝の詞書を各巻ごとに全文現代語訳し、次に原文を載せ、注を施したもの。忍澂撰の『勅修吉水円光大師御伝縁起』の抄訳と法然上人年譜が付加されている。
(5)『法然全集』別巻一・二 大橋俊雄編訳 春秋社刊 平成六年 各巻八千五百円 詞書の本文と釈文を上下に対応させ、読みやすくしている。
※『円光大師行状画図翼賛』円智纂述、義山重修(『浄土宗全書』第十六巻所収山喜房 八千二百四十円)
江戸時代の学僧義山が、円智との業績をまとめ上げ、絵伝の内容の細部にわたり考証注釈を加えた書。その上、事義、地理、寺院、人物、書目についても列挙して解説している。義山の護教的立場を考慮すれば、参考に便利。
(6)『浄土宗聖典』浄土宗刊、平成十一年(予定)七千円、第六巻所収。詞書と釈文。ルビ付。
二、『法然上人伝記』一巻(「醍醐本」)
京都醍醐寺の三宝院に伝わる法然上人伝、「悪人正機」についての記事もある。
(刊本)
(1)『法然上人伝全集』所収
(2)『藤堂恭俊博士古稀記念 浄土宗典籍研究』資料篇に、写真と翻刻版が所載され、研究篇に論文がある。
三、『源空聖人私日記』一巻
親鸞自筆書写の『西法指南抄』中末に所収されている伝記。
(刊本)
(1)『親鸞聖人真蹟集成』第六巻(法蔵館)に写真版があり、その翻刻が『定本親鸞聖人全集』第五輯録篇にある。
(2)『法然上人研究』第六号(法然上人研究会)にも翻刻文が所載されている。
(3)『浄土宗全書』第十七巻所収
四、『知恩講私記』
隆寛が作った講式の一つで、法然上人伝の一部が記されている。東寺宝菩提院蔵
五、『本朝祖師伝記絵詞』四巻(「四巻伝」)
九州の善導寺に蔵される伝記で、『法然上人伝法絵』『法然上人伝法絵流通』と関連がある。
(刊本)
(1)『法然上人伝全集』所収
(2)『浄土宗全書』第十七巻所収
六、『法然上人伝』二巻残欠(「増上寺本」「残欠二巻本」)
増上寺に伝わる残欠の二巻伝である。
(刊本)
(1)『法然上人伝全集』所収
(2)『浄土宗全書』第十七巻所収
七、『知恩伝』二巻
元禄十六年(一七〇三)恵山が知恩院山内入信院蔵の義山所持本を書写させたもの。
(刊本)
(1)『法然上人伝全集』所収
八、『法然聖人絵』四巻残欠(「弘願本」)
奥書に釈弘願と名があって「弘願本」と称される。
(刊本)
(1)『法然上人伝全集』所収
九、『黒谷源空上人伝』一巻(「十六門記」)
法然上人の生涯が十六門に分けて記されている伝記。
(1)『法然上人伝全集』所収
(2)『浄土宗全書』第十七巻所収
十、『法然上人伝絵詞』九巻(「琳阿本」)
東京芝妙定院に蔵される。写本であるが向福寺琳阿の名があり、琳阿本と呼ばれる。
(刊本)
(1)『法然上人伝全集』所収
(2)『浄土宗全書』第十八巻所収
十一、『拾遺古徳伝絵詞』九巻(「古徳伝」)
関東十八檀林の一つ瓜連常福寺に伝わる全九巻の完本
(1)『法然上人伝全集』所収
十二、『法然上人伝記』九巻(「九巻伝」)
九巻が各巻上下に分かれていて十八巻の構成になっている。もとは絵伝であったものが、絵を「四十八巻伝」に提供し、詞書だけの伝記となった。
(刊本)
(1)『法然上人伝全集』所収
(2)『浄土宗全書』第十七巻所収
十三、『法然上人伝』十巻(「十巻伝」)
漢文体の十巻からなる伝記で十巻伝と称される。
(刊本)
(1)『法然上人伝全集』所収
(2)『浄土宗全書』第十七巻所収
十四、『法然上人伝法絵流通』一巻残欠
『国華』誌に紹介されたので「国華本」ともいわれる。
(刊本)
(1)『法然上人伝全集』所収
十五、『法然上人伝法絵』一巻(「高田専修寺本」)
真宗で三重県の高田専修寺に伝わる伝記
(刊本)
(1)『法然上人伝全集』所収
(平成11年度 浄土宗布教・教化指針より)