『選択集』は法然上人が「念仏の教え」を体系づけた書物であるが、その内容は「念仏の教え」の教門(理論)と行門(実践)とが明らかにされており、十六章段より構成されている。三祖良忠は『選択伝弘決疑鈔』一で「初めに第一篇はこれ教判の大綱、後の十五篇は即ち起行の綱目なり」といっており、いわゆる十六章段を教行二門の組織において理解しようとしている。
ところで『選択集』の全体の構成を図示するとおよそつぎのようになる。
選択本願念仏集
南無阿弥陀仏 往生之業
念仏為先
第一章(聖道浄土二門篇) ―安楽集
第二章(捨雑行帰正行篇) ―観経疏散善義
往生礼讃
第三章(念仏往生本願篇) ―無量寿経
観念法門
往生礼讃
第四章(三輩念仏往生篇) ―無量寿経
第五章(念仏利益篇) ―無量寿経
往生礼讃
第六章(末法万年特留念仏篇)―無量寿経
第七章(光明唯摂念仏行者篇)―観無量寿経
観経疏定善義
観念法門
第八章(三心篇) ―観無量寿経
観経疏散善義
往生礼讃
第九章(四修法篇) ―往生礼讃
西方要決
第十章(化仏讃歎篇) ―観無量寿経
観経疏散善義
第十一章(約対雑善讃歎念仏篇)―観無量寿経
観経疏散善義
第十二章(付属仏名篇) ―観無量寿経
観経疏散善義
第十三章(念仏多善根篇) ―阿弥陀経
法事讃
第十四章(六方諸仏唯証誠念仏篇)―観念法門 法事讃
往生礼讃
観経疏散善義
浄土五会法事讃
第十五章(六方諸仏護念篇) ―観念法門
往生礼讃
第十六章(以弥陀名号付属舎利弗篇)―阿弥陀経
法事讃
大経撮要
観経撮要
観経撮要
(各章の篇目は『決疑鈔』によるものである。)
このように『選択集』は、題号のあと「南無阿弥陀仏 往生之業念仏為先」の十四文字にはじまっている。往生(救い)を求めようと願うならば、まず南無阿弥陀仏と口に称えなさい、ということを示している。法然上人のさいごの御遺訓『一枚起請文』も「只一向に念仏すべし」ということばで結ばれている。法然上人の示す教え、なかんずく『選択集』は念仏にはじまり、念仏におわっているといえる。『選択集』の巻頭に示されている「南無阿弥陀仏」の名号について、二祖弁長は『徹選択集』に、
題のつぎの文のはじめに、南無阿弥陀仏と置くのは、すなわち是れ結前生後なり。
結前とはいわゆる前の題中の三義(諸師の念仏善導の念仏・元祖の念仏)ともに称名(念仏)と結ぶなり。生後とはいわゆるこの集(選択集)の列するところの一一の段(十
六章)またみな称名(念仏)の義を顕わさんがためなり。
といっている。『選択集』十六章段にわたって述べられている内容のすべてが、称名念仏の一行の実践に帰することを示したことばであるといえよう。
明治時代の傑僧・福田行誡(一八〇六 〜 一八八八)は、『選択集』十六章段の部分を「画ける竜の首尾手足等のごとし」といい、南無阿弥陀仏の名号を含んだ十四文字を「眼精を点ずるがごとし」といっている。これまた『選択集』の内容が、念仏の一行によって生まれ、成りたっていることを示したことばである。
いずれにせよ『選択集』は、さきの図によっても明らかなように、『無量寿経』・『観無量寿経』・『阿弥陀経』の浄土三部経を中心に、その要文を集め、その意趣を善導の著書(五部九巻)に述べられている解釈にそって、いわゆる「念仏の教え」を開顕していったのである。
(平成10年度 浄土宗布教・教化指針より)