第八章 生活篇

念仏の生活

日本人の利益信仰

 全国の有名な神社仏閣が発行する祈祷札の内容をみてみると、国家安穏・五穀豊穣・豊漁祈願・世界平和・家内安全・商売繁盛・業務達成・笑門来福・防災消除・安産祈願・子孫繁盛・大願成就・立身出世・無病息災・諸病平癒・身体健全・厄除開運・福徳開運・宝籤命中・良縁祈願・恋愛成就・学業上達・合格祈願・航海安全・海上平安・渡航安全・交通安全・工事安全など、共同体・家・個人の各レベルから生業・栄達開運・治病・衣食住のすべての生活局面にわたって、人生のあらゆる問題と結びついている。

 このように現象面をとらえてみると、日本宗教のほとんどが現世利益を標榜していることになってしまうであろう。では、このように既成教団が現実に現世利益を標榜しているのに、何故に戦後以来の新宗教の代名詞として現世利益をあげつらい、低次で浅薄な宗教現象と蔑視するのであろうか。

 ここで、仮に宗教の基底に人間心情の自然の発露として「祈り」があり、その祈りが結実したのが現世利益の信仰であるとするならば、高次宗教と見なされてきた仏教では、現世利益を教義上どのように位置づけているのであろうか。そして現実に寺院に祀られ、尊宗を集めている現世利益将来の諸仏・諸菩薩を庶民がどのように受容しているのであろうか。このためには、現世利益とは何かをまず概念的に明らかにする必要があるであろう。

(平成9年度 浄土宗布教・教化指針より)