一、生涯教育論の出発
生涯教育という考え方が、はじめて提起されたのは、ユネスコの「成人教育推進国際委員会」においてであった。一九六五年の委員会において、ポール・ラングラン(Paul Lengrand)が提唱した教育改革に対する考え方が出発点となった。その後一九七〇年、「生涯教育入門」という書を著し、大きな反響を呼び、その後、世界各国の教育理論、教育政策の主流となっていくのである。
したがって生涯教育の考えは、まだわずか二十数年の歴史である。けれどもその影響は世界的考え方となっているものである。
生涯教育という語は、英語では(lifelong integrated education)といわれる。すなわち「lifelong」は、生涯にわたって行われる教育であって、まさに生涯教育とはこの言葉から出ているのであるが、今一つ重要なる概念があることを忘れてはならない。「integrated」という言葉で、総合的、あるいは統合的という考え方である。それは「生涯にわたって、総合的に行われる教育」という意味をもっている。
総合的ということについて、二つの立場が考えられる。即ちその二つとは、一つには、時間的総合であり、今一つは、空間的総合である。時間的というのは、人生の各段階の総合ということで、後者は学習の機会が学校だけでなく、家庭、社会、職場等あらゆる場所で確保できるように、体制を総合的に整えることである。
このように学習というものを、全生涯にわたって、総合的な立場にたって見直していこうということから、出発した教育の考え方であるが、今一つ大切な考え方を忘れてはならない。それは教育というものが、受動的なものでなく、能動的、自発学習であるということである。日進月歩、激変する社会にあって、教育の効用は「何を学んだか」ということではなく、「如何に学んだか」「どのように課題を解決したか」ということによって、身につける問題解決の能力である。その問題解決能力が、激変する社会において、最も求められる能力である。
以上の三つの考え方、生涯にわたっての学習、総合的な立場での学習、問題解決能力を身につける自己学習の三つの考え方が、生涯教育の三本柱である。
(平成9年度 浄土宗布教・教化指針より)