昨年来の宗教状況は、これまでのわれわれの持っていた常識を根底から覆すものだったことは、オウム真理教事件や政界再編の直後の衝撃よりも、徐々に一層感じられてくるし、この影響も拡大していくことだろう。政治と犯罪という日常世界で宗教団体が果たした、行っている行動は、どの様に一般社会の人達に受け止められていくのだろうか。
奇しくも平成七年十二月八日に成立した宗教法人法の改正の目的は、一宗教団体を牽制するためだけであったと考えるばかりでなく、ひるがえってわれわれ寺院自身の問題として見る時、この改正の目的の重要なひとつが、國學院大学の阿部美哉氏が指摘する「公開性の原則」の確保にあることは間違いないだろう。信教の自由と言う憲法上の不可侵ともいえる条文に確保された宗教団体は、法に定める一定の条件さえ満たせば法人認可がなされるという準拠主義によって成立している。他の公益法人と決定的に異なるこの優遇措置は、宗教法人法成立時の宗教に対する政府や国民の見方を反映していたように見える。しかし、半世紀が経とうとする現在、宗教団体の方も大きく変わってきたし、一般社会の人達の宗教団体に対する見方も極めて醒めて、世俗的な営利団体と異ならない、いやむしろもっと酷いとすら思われる批判に満ちた状況が出現している。東京大学の島薗進氏は、近年の宗教団体の特徴のひとつは教団の内閉化であると分析している。内閉化の特徴は、自己の正しさを絶対正当化し、相対的客観的に世界と関われないところにある。阿部氏が主張するように、宗教法人の憲法上の特権に安住することなく、優遇措置に対する当然の対応として、ある一定の枠内での情報の公開する姿勢を持つ開かれた宗教になることによって、社会からの信頼を再び取り戻すことができるのではないだろうか。
なお、以下に入手可能な主な参考文献を挙げておく。
芦部信喜『憲法』岩波書店 一九九三
阿部美哉『政教分離』サイマル出版会 一九九〇
伊藤正巳『憲法』第三版 弘文堂 一九九五
笠原一男『日本宗教史』山川出版 一九七七
武田道生「日本宗教弾圧史」『日本「宗教」総覧』新人物往来社 一九九一田村圓澄『日
本仏教史』三 鎌倉時代 法蔵館 一九八三
東京大学社会学研究所編『基本的人権』五 各論 一九九一
桐ケ谷章、藤田尚則、塩津徹『信教の自由を考える』第三文明社 一九九四創価学会青
年部編『政治と宗教を考える』第三文明社 一九九四
執筆者一覧
本年度の布教・教化目標 真野龍海
第一章 『選択集』に説かれた本願 香川孝雄
第二章 本願と法然上人 深貝慈孝
第三章 「本願」の理解と常民の信仰 平 祐史
第四章 「本願」の現代的意義 峰島旭雄
第五章 「四誓偈」の本願 牧 達雄
第六章 家庭教育と本願 家田隆現
布教資料 Ⅰ 牧 達雄
布教資料 Ⅱ 藤井正雄
布教資料 Ⅲ 武田道生
布教委員会委員名簿
委員長 真 野 龍 海
副委員長 牧 達 雄
委 員 吉 田 ■(哲) 雄
〃 平 祐 史
〃 野 村 之 彦
〃 中 村 康 雄
〃 三枝樹 秀 夫
布教・教化指針(平成8年度)
平成8年度5月1日 発行
編集 布教委員会
編集協力 浄土宗出版室
印刷 (株)共立社印刷所
発行 浄土宗
浄土宗宗務庁
〒605 京都市東山区林下町400―8
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浄土宗東京事務所
〒105 東京都港区芝公園4―7―4
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(平成8年度 浄土宗布教・教化指針より)