Ⅲ 信教の自由の歴史的展開と現状

   はじめに

 国家権力によって侵すことのできない個人の生来の権利としての信教の自由は、日本の歴史上、ひとつの大きな宗教運動としてみるならば、鎌倉時代になって、ひとりひとりの人間の心の救済を説いた法然上人の出現に始まるといっても過言ではない。以後、室町時代、戦国の動乱期、徳川幕藩体制期の封建社会主義を通じて、信教の自由の抑圧と利用、抵抗の宗教運動の歴史が繰り返された。

 近代民主主義社会が成立した明治期になってからは、帝国憲法に信教の自由は条件付きで認められた。しかし神道国教化政策と軍国主義化のなか、さまざまな宗教団体が信教の自由を奪われ、あるいは公認されず、あるいは弾圧された。また大政翼賛の大義のもと、多くの宗教団体が国策への協力を求められた。近代国家の中核をなす基本的人権の、そのまた根本をなす信教の自由が、何らの条件も無く認められたのは、日本国憲法の成立によってであった。その信教の自由も、現在、政教分離原則という観点から、宗教団体の政治参加という新たな問題を投げかけているし、オウム真理教事件を発端とした国民の宗教不信を背景として、平成七年十二月八日には宗法人法の改正が可決された。以下、歴史的展開と憲法上の信教の自由の内容と問題点を概説する。また、現在の宗教と政治の問題点を指摘したい。

(平成8年度 浄土宗布教・教化指針より)