一、教説

 控室(準備)

 布教師の控室には、仏壇または床の間に本尊、お名号の掛軸を安置し、香華、灯燭、供物等の荘厳を行う。

 白衣を着るときは、まず初めに足袋を履く。新しい足袋は、水につけて糊気を取っておくとよい。糊がついていると、入堂するとき内陣の床板で滑ることがある。

 袈裟と法衣は、通常壊色を用いる。袈裟は如法衣で、天竺衣、南山衣のどちらでもよい。法衣は、黒または茶の直綴を被着する。特別法衣または地方の慣例によって顕色を用いることがある。壊色の法衣には、袴をつけないものとする。五重相伝会の場合、勧誡師は普通紫衣を用いるが、古代紫がふさわしい。授戒会の時は壊色を用いることもある。

 十月一日より翌年五月三十一日までの冬衣の期間は、白無地羽二重製の領帽を被着する。夏衣は、六月一日より九月三十日まで被着する。

 身支度が整ったならば、本尊前に香を焚き、三礼の後、坐して暫時、称名念仏する。説相袱紗の準備は、袱紗の先端部分に紋がついている場合は紋が前方になるように◇(菱)型に開き、稿本を中央に縦に置いて、手前、左、右、前方の順にたたみ、紋がない場合は□(四角)型に開いて、稿本を中央前方に置き、三つ折の要領で手前、左、右の順に包み納める(稿本を中央手前に置く場合もある。この時は前方、左、右の順に包み納める)。いずれも開いたときに金襴が表になるように包むのが慣用である。

 入堂

 入堂するときは、引僧が布教師の前に立ち、袈裟被着偈を称える。引僧は、柄香炉に香を焚き、柄の手前を右手で握り、左手を仰向けて柄の中央部を受け、香炉を前方にして捧持し、布教師の前に立って進む。役僧は袱紗を説相箱に納め、肩の高さに持って布教師の後に従う。地方によっては、引■(金)が先進する場合もある。

 布教師は、法服の威儀を正し、左手に日課数珠、または百八数珠を掛け、如意の柄を右手で握り、左手を添えて、胸前に斜めに執持する。説相袱紗を自分で持つときは、両手で胸前に持ち、如意とともに持つときは、如意の上にのせて執持する。

 歩行は左足から踏み出し、一、八メートルを六単歩で歩く。右折しようとするときは、左足を右足先に、ほぼイ形になるようにしてから、右足を右方向に踏み出す。左折の場合は、右折に準じて反対に行う。

 講場内では、木魚念仏を称え、布教師を待つ。この間に本尊左方(向かって右方)の後門より入堂し、本尊前に至る。

 仏前焼香

 僧侶は自分の香盒を常に所持するのが心得である。香盒を左袂から取り出し、右手の親指、人差指で香木をつまみ、左掌を仰向けて右手を受け、額より上に至るように頂戴し、焚焼する。回数は一回、乃至三回とする。

 無言三拝

 合掌して両足の指を爪立て、つぎに、左膝を立てて起立し、左足を引いて右足に揃える。左右の踵を少しはなして直立し、目は聖容を仰ぎ見る。つぎに両膝をゆっくり屈して、右、左の順に膝をつける。このとき必要に応じて袈裟の下部を右手で持ってもよい。袈裟を膝下に敷き込まないためである。つぎに、両臂、額を床(畳)につけ、両掌を仰向けて耳朶のあたりまで上げ、やや、しばらく形を保ち、その後、合掌し上体を起こす。この礼を上品礼といい、三回行う。

 登高座

 仏前三拝の後、転向して高座前に至り、礼盤上に着座、蹲踞の形から、如意を高座上に横に置き、前方に押し進め、袈裟、法衣を捌き、まず左膝を立てて、高座の縁にかけ、つぎに右膝を高座上に上げ、左右膝を前進させ、最後に左膝を少し進めて正座し、如意を前卓右側に縦に置き、袈裟、法衣の威儀を整える。

 役僧は、この間に説相箱を前卓に置く。役僧がいない場合は、登高座の後、袱紗を高座前卓の説相箱に納める。

 焼香

 前記の仏前焼香の作法と同様。

 開説相

 説相箱に納められた袱紗の上端三角部分を前方に開き、次に右、左、手前の順に開く。三つ折に納めた場合は、右、左、前方の順に開く。つぎに合掌の後、割笏一下し、この合図により木魚念仏を停止する。

 授与十念

「如来大慈悲哀愍護念」または、「令声不絶具足十念称」の文を称え、割笏一下し、十念を称える。

 開経偈

 「無上甚深微妙法」と称え割笏一下する。この偈の二句目から讃題を捧持し、香に薫じ、四句目の終わりに頂戴する。

 讃題

 讃題を捧持して、「謹んで拝読す」または、「敬って拝誦し奉る」、あるいは「謹み敬って拝読し奉る」と前文を称え、その後、本文を拝読し、十念を称える。会場の広狭に応じて声の大小、高低、緩急に工夫がいる。

 説教

 本説に入り、作法に特別なことはないが、身振り、手振りが品位を保つように注意する。

 十念

 「同称十念」と発声し、割笏一下する。

 閉説相

 開説相と逆の手順で包み納める。

 念仏一会

 「光明■(遍)照 十方世界 念仏衆生 摂取不捨」と発声し、若干遍念仏を修し、この間に下高座する。あるいは同称十念に終わり、念仏一会、その間に閉説相、下高座する。

 下高座

 如意を膝前に横に置き、正座から、右膝、左膝を下げ、右足を礼盤上に着け、つづいて左足を下ろして蹲踞し、如意を手前に引きよせ、礼盤上に着座する。つぎに引僧は、柄香炉を持って先導し、本尊前に至る。説相箱を持つ役僧は後に従う。

 無言一拝

 仏前焼香の後、上品礼の威儀により一拝する。

 退堂

 引僧、布教師、役僧の順序に、本尊に向かって左側の後門に入り、控室にさがる。控室では「帰僧息諍論」の文を称え、本尊前に礼拝の後、袈裟、法衣を脱し終わる。

(平成7年度 浄土宗布教・教化指針より)