ホスピス(ホーム、ハウスなどの用語が使用されることがある)は中世の西欧社会で、巡礼や旅人に休息を与え、病める人を看護する施設であったが、近代にいたって終末期の患者の援助を目的とする施設となった。そこでの方法は医学によるキュア(治癒)ではなくケア(看病、援助、看とり)が目的となる。
近代のホスピス運動の組織者といえるシシリー・ソンダース(聖クリストファー病院)は、疼痛のコントロールと死の個性化を重視している。死の個性化とは、一人一人が死を<自分の死>として受容できることを指している。疼痛緩和の処置は行うが、その他は可能な限りに延命的処置をせず、一人一人が求める生き方を最期の時まで援助しようとするものである。従ってホスピス・ケアは、患者のあらゆる問題、つまり身体的、精神的、社会的、霊的<苦しみ>に対処することになる。医療従事者、ソーシャルワーカー、宗教者などの総合的なケアが要請されるのである。
この在り方を仏教の立場からとらえ直したのがビハーラ運動である。ビハーラとはサンスクリット語の「休養の場所、気晴らしをするところ、僧院、または寺院」から、仏教を背景としたターミナル・ケア施設の呼称として田宮仁によって提唱された用語である。その理念は「仏教を背景としたターミナル・ケアとは、ブッタの悟られた教えを準拠として死を知る(悟る)ことであり、その教えにもとづいた死を自覚する人間同志(ケアの対象者とケアの提供者)の援助の共同体であるゆえに、独自の呼称として“ビーハラ・ケア”の用語が相等しい」(佛教大学・『仏教とターミナル・ケアに関する研究(2)』)と説明している。
こうして現在では聖隷三方原病院、淀川キリスト教病院を始めに国立の緩和ケア病棟、仏教ホスピスの先駆となった長岡西病院のビハーラ・ケアなどが生まれ、さらにはビハーラ僧の養成が佛教大学で始められている。
(平成6年度 浄土宗布教・教化指針より)