(六) 在家仏壇の意義

 仏壇はもと、インドにおいて僧院の中に仏龕をつくり、仏像を祀ったに始まるといわれている。中国では雲崗、龍門の石窟にこれが見られる。そして中国では廟を造って祖先の霊を祀った。日本においては仏教の伝来とともに、この風習が伝わり、天武天皇白鳳十四年(六八五)には「諸国の家ごとに仏舎を設け三宝を供養するべし」と詔されている。しかし仏壇が一般民衆の家に設けられて、仏を祀り祖先の位牌を奉祀するようになったのは徳川時代以降のことである。

 現在檀家の各家には仏壇があって阿弥陀仏一尊(または弥陀三尊)と善導大師法然上人の三尊の木像または画像を祀り、さらに其の家の祖先の霊を奉祀している。この仏壇は本堂の分身と考えるべきものである。菩提寺の本堂は全檀家の祖先の霊を奉祀するところであり、現世に極楽浄土を表象し、祖先の浄土に在ることを示すものである。菩提寺と檀家、奉祀する祖霊の多寡はあるけれども、本堂と在家仏壇とは同じ意味のものである。したがって、檀信徒に対して特に仏壇を大切にして、朝暮の礼拝供養を欠かすことなく勤めるようにすすめ、仏の護念と感謝の念仏を修するように説くべきである。これが浄土宗念仏信者の在るべき理想像と思われる。

 子供は親の行為を見習うものであるから、親の念仏信仰は子供の人間性の陶治に大きな影響を与えるものである。家庭における仏壇を敬い大切にして朝暮の礼をなす家庭こそ平和にして礼節のある家というべきであろう。少年非行等は主として仏および祖先を崇めない不信よりおこるものと思われる。

 「いかに豊かな国王であっても、また貧しい民衆であっても、その家庭に温い平和を見出すものは最も幸福な人である」という古語のごとく、温い家庭は念仏信仰によって作りあげられることを説きあかすべきである。

(平成5年度 浄土宗布教・教化指針より)